国際シンポジウム

マンガ文化研究の行方:
対象自体への固執から多様な方法論の重視へ

広義の「マンガ文化」を形成するマンガやアニメ、ゲームなどは、21世紀初頭から学術的研究の対象となり、マンガスタディーズやゲームスタディーズといった研究分野さえも登場してきました。しかし、その新分野に特有の専門知識を、それ以外の学会において活用することは必ずしも歓迎されていません。特に諸方法論よりも研究対象自体にこだわりがちな地域研究などでは、何を取り上げるかが、それをどのように取り上げるかよりも判断基準となる傾斜があり、マンガやアニメ、ゲームといった対象が自立した「学」を成り立たせないことは見逃されやすいのが現状です。

そもそもマンガスタディーズやゲームスタディーズを追究する場合も、それらの対象に固執せず、物語論とジェンダー研究、サブカルチャー論、そして教育学などの、特定の表現メディアに専念しない分野との方法論的関連づけが求められているのです。

この度の国際シンポジウムでは、マンガとゲームに焦点を絞りつつ、対象や方法論、各メディアの特質と収斂、個別の作品とそれを囲む文化的・経済的環境といった側面を両立させることによって「マンガ文化」研究の行方を発表、論議します。

日時 2016年6月18日(土) 午後1時00分~5時30分
会場 京都国際マンガミュージアム 1階 多目的AVホール
料金 無料 ※ミュージアムへの入場料は別途必要です
出演 オーリガ・コピローワ(ポスドク研究者)Dr. Olga KOPYLOVA
ジェシカ・杉本バウエンス(龍谷大学国際学部)Dr. Jessica Sugimoto-BAUWENS
ビョーン=オーレ・カム(京都大学文学研究科)Dr. Björn-Ole KAMM
加藤浩平(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科)KATO Kohei
ティアム=ファット・カム(ラトガーズ大学メディア研究科)Thiam-Huat KAM
ゾルタン・カッチュク(ポスドク研究者)Dr. Zoltan KACSUK
司会 ジャクリーヌ・ベルント
(京都精華大学マンガ研究科教授/国際マンガ研究センター副センター長)
定員 200名(先着順)
参加方法 事前申込不要

その他 発表は日本語で行われます。

プログラム

13:00~13:15 企画担当兼司会による挨拶・問題提起 [以下、各報告20分+質疑応答15分]
第1部 マンガ物語論 13:15~13:50 研究報告1
13:50~14:15 研究報告2
第2部 ゲーム教育論 14:30~15:05 研究報告3
15:05~15:40 研究報告4
第3部 ファン文化論 15:55~16:30 研究報告5
16:30~17:05 研究報告6
17:05~17:45 総括討論

発表内容

【研究報告1】オーリガ・コピローワ
「意義的経験のネットワーク:物語との関係から考察するメディアミックス

複数の表現メディアに渡るコンテンツの展開はこの20年間で日本でも欧米でも徐々に一般化し、マンガ文化にも顕著な影響を与えてきた。日本でメディア産業の戦略として繁栄しているのは、いわゆるメディアミックスである。2000年代初頭から普及してきたメディアミックスは生産側だけでなく、研究者や評論家などの注目をも引き始めている。しかし、既存研究の大半は産業構造やオタク市場あるいはオタク文化全体の特徴に焦点を当てており、それらを媒体する作品を切り口にメディアミックスを取り上げる営みがほとんど見当たらない。すなわち、物語を展開させるデバイスとしてのメディアミックスの可能性がいまだに考察されていないし、それを論考するための枠組みも確定されていない。この問題を出発点に、本発表ではメディアミックスを、ある物語(ないしその主要な要素)を共有し、意義的に関連し合う作品のネットワークとして論じる。

プロフィール

2016年3月、京都精華大学マンガ研究科博士後期課程を修了。主な研究テーマはマンガと文学作品(特に小説)の比較物語論である。特定の作品に注目し、それをアダプテーション・スターディズの観点から分析する。
「アダプテーション論から見たメディアミックス─前田真宏の『巌窟王』を例に」
『京都精華大学紀要』45号

【研究報告2】ジェシカ・杉本バウエンス
「ブラック・ジャックの変わりゆく容姿:マンガ読者ジェンダー論」

手塚治虫の大ベストセラー「ブラック・ジャック」シリーズは2011年に、医学生時代のブラック・ジャックの冒険を描く「ヤング ブラック・ジャック」として生まれ変わった(『ヤングチャンピオン』秋田書店、2011年24号~)。そのアニメ化作品は2015年10月~12月に放映され、ほぼ同時に手塚治虫記念館は「ヤング ブラック・ジャック展」を開催した(2015年10月30日~2016年2月21日)。田畑義明(作)・大熊ゆうご(画)による新しいマンガが、手塚の原作と異なるのは、現代の読者を引き寄せるようにデザインがアップデートされただけでなく、戦略的に女性読者の視線を魅了し、女性読者の割合を新たに増やすように構想されたという点である。

近年、マンガ文化では、男性読者の減少と女性読者の増加、またここから生まれる男女比率の変化が話題になっている。本発表では、「ヤング ブラック・ジャック」を具体例に、従来、男性向けのジャンルだったはずの少年マンガ・青年マンガがいかに女性読者を狙うかをジェンダー論の視点から論考する。

プロフィール

龍谷大学国際学部専任講師(国際文化学科芸術・メディアコース所属)。研究分野は社会学、カルチュラル・スタディーズ、ジェンダー論であり、大阪大学から取得した博士論文を出発点に、BLマンガ論と女性ファン研究の側面からマンガスタディーズに貢献してきた。出版物については以下をを参照。

http://www.ryukoku.ac.jp/who/detail/533818/
http://imrc.jp/researcher/post-12.html

【研究報告3】ビョーン=オーレ・カム
「ライブ・アクション・ロールプレイと『ブリード』:幻想的空間における没入感と学習」

文学からアニメとマンガ、そしてゲームに至るまで広がるファンタジーという物語ジャンルについては現実逃避論と若者疎外論の言説が著しい。それとは対照的に、ゲームデザイナーや教育者、政治的運動家は、ファンタジーロールプレイングを教育や啓発のために採用し始めている。例えば、肥満という社会問題や、圧政的軍事国家での日常生活に取り組むといったようなプロジェクトが注目を集めている。教育者が求める学習効果、つまり単なる娯楽を越えて明示的な目標のあるシナリオを構成するということは、ロールプレイ理論で「ブリード」(流出)と呼ばれている。

本発表では、ライブ・アクション・ロールプレイ(LARP)を例に「ブリード」とそれを裏付けている「没入感」という概念を検討し、ファンタジーによる学習の可能性を探求する。その際、LARPというのは、娯楽活動として90年代に登場し、即興劇(インプロ)と共有ストーリーテリング、さらにゲーム要素(ルール、障害物)の組み合わせにより、人々に自分と異なる世界を体験させる手法である。

プロフィール

ハイデルベルク大学日本文化学・メディア学博士。現在、京都大学文学研究科講師。研究関心は、メディア使用とそれをめぐるジェンダー論、社会的包摂/排除論などである。ボーイズラブ・マンガの使用パターン及びロールプレイングゲームの文化横断的世界での交流に特に焦点を当てて研究している。共編著書に『Debating Otaku in Contemporary Japan』(Bloomsbury, 2015)がある。

【研究報告4】加藤浩平
「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)を用いた自閉スペクトラム症(ASD)児者へのコミュニケーション支援の可能性」

自閉スペクトラム症(ASD)は、対人コミュニケーションに困難を抱える発達障害の一種 である。ASD児者の社会的コミュニケーションの支援は,これまでソーシャルスキル・ トレーニング(SST)などの訓練主体の支援が行われてきているが,発表者はASD児者の 支援方法の一つとして,テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)という会話型 ゲームを用いた小グループ支援活動に長年取り組んでいる。これまでの実践研究からTRPGに 参加したASD児たちのコミュニケーションが促進された結果を得ており、その背景として TRPG独自の構造である「キャラクターを介した間接的コミュニケーション」や「ルール・ 選択肢の自由度の高さ」「情報の視覚化」などがあるという仮説を立てている。当日の発表 では,これまでの実践や研究の結果を交えつつ,TRPGを用いた活動が ASD児らの社会的 コミュニケーションや対人関係,さらに生活の質(QOL)に及ぼす効果とその可能性を紹介したい。

プロフィール

東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程/編集者。心理・教育領域の編集者 として活動する一方,TRPGを用いたASD児者の社会的コミュニケーションの支援,ASD児者の 余暇活動支援などの実践と研究をしている。著書に『発達障害のある子の自立に向けた支援』(共著,金子書房,2015)がある。

【研究報告5】ティアム=ファット・カム
「コミケの可能性と限界、あるいはマンガ・アニメ・ゲームのファンたちを研究する理由」

日本のマンガ・アニメ・ゲームのファンたちを研究する価値がどこにあるのか。人間 関係や日常生活が資本主義下、根本的に再構成されつつある現在、ファン文化を切り口に、 メディアと消費、趣味、そして遊びが今日の日本で果たす社会的役割というより大規模な 問題を探求することができるのである。本発表では、参与観察及びファンとのインタ ビューに基づいて、日本最大のファン・イベントであるコミックマーケットの可能性と 限界を考察する。その際、コミケという空間が基盤とすると同時に成り立たせる価値観と 人間関係に注目する。具体的には、趣味を社会的「現実」から分離しながらも、その 現実を特徴づける社会人らしい振る舞いや効率性の維持を重視するという現象を分析するが、 コミケには、倫理観や他人への開放性をめぐる新種の社会性も生まれる可能性を論述する。

プロフィール

ラトガーズ大学メディア研究学博士課程。主な研究分野は、メディアファンの文化と現代 資本主義との接点。『Debating Otaku in Contemporary Japan』(Bloomsbury, 2015)の 共編者。

【研究報告6】ゾルタン・カッチュク
「欧米におけるアニメ・マンガファンダムから学ぶ:ニッチ市場を支えるファン文化と サブカルチャー的クラスタ」

21世紀初頭から日本アニメやマンガ、ゲームなどが欧米において勃興を迎えたが、2008年 の世界的金融危機以降、減速し始めた。そのため、日本マンガ文化に期待されていた 海外へのインパクトは妄想にしか見えないようになってしまったのである。しかし、欧米 におけるマンガ・アニメファン文化が停滞せずに発展し続けてきただけでなく、地元の ギーク・サブカルチャー的クラスタにも組み込まれてきた。それを念頭に、欧米における 日本マンガ文化の未来を楽観的に考えることができるのではないかと思われる。本発表 ではハンガリーで行ったフィールドワークを背景にマイクロ経済学的なモデルを提示し、 ファン文化とサブカルチャー的クラスタがニッチ市場に与える、主流市場における嗜好の 動向とは異なる影響を論述する。

プロフィール

社会学とカルチュラル・スタディーズを方法論的背景に、2016年3月、京都精華大学大学院 マンガ研究科の博士号を取得。研究関心はサブカルチャー論とファン文化研究、ギーク文化と オタク文化との関係性である。出版物については以下を参照
http://kyoto-seika.academia.edu/ZoltanKacsuk
http://imrc.jp/images/upload/lecture/data/02KACSUK_Cologne.pdf

※スケジュール・内容については変更の可能性があります。予めご了承ください。
-IMRC- 国際マンガ研究センター
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